為替相場が不安定なこともあって、ドルべ−スでの比較はかならずしも正確だとはいえない。
そこで、購買力平価という考え方が有用になる。
たとえば、東京で売られているマクドナルドのハンバーガーと北京で売られている同じハンバーガーというように、まったく同種類の商品の価格を比較して、その比率をもって本当のレ−トとみなすやりかたで、一九九三年に世銀は中国の一人当たりGNPを一千ドルと試算している。
これは実際のレ−トで算定した場合の三倍近くにもなっている。
この計算でいくと、中国のGNPは日本の約三分の一になる。
では主要な生産物に注目してみるとどうか。
もっとも基幹的な産業の一つである鉄鋼の産出高は、日本の一億トンに対し中国は八千万トンに遺しており、日本を追い越すのは時間の問題である。
つい十四年前は三千万トンでしかなかったのだ。
ところが、自動車となると日本は一千万台を超える規模に達しているが、中国はまだその十分の一程度でしかない。
また、日本や米国の企業の直接投資によって急速にレベルアップしたといわれるエレクトロニクス産業の中国の技術水準は、まだまだ日本や米国と比べると二十〜三十年も遅れている。
中国は将来、まちがいなく経済大国になると思われている。
最大の根拠は経済成長率の大ききである。
過去十年以上にわたって九%台の高成長率を維持している。
もし日本が二%程度の成長に甘んじ、中国が二桁近い成長をつづけていけば、二十一世紀早々にもGNPの大きさは逆転する可能性がある。
ただ、これはGNP総額であって、人口増加を考えると一人あたりのGNPはそれほど伸びないという見方もできる。
中国の経済力が大きくなると、日本も含めた周辺諸国や国際社会に多大な影響を及ぼすことが予想される。
たとえば中国は豊富な天然資源をもっているが、石油については十分な自給能力はない。
中国経済がいま以上に成長し、日本にも匹敵するくらいの石油輸入国となると、国際需給を圧迫させ、石油価格は上昇する。
そうなるといちばん被害甚大なのは石油をもたない低開発国である。
軍事カも問題である。
購買力平価で測った軍事費は二十三億ドル、軍隊は三百万人という規模である。
大国が周辺諸国に悪影響を与えないためには、軍事力を抑えぎみにし、輸出だけではなく圏内市場を開放して輸入を促進するなどの配慮が必要になる。
その意味で最近、中国がガットに加盟する意志をみせていることは評価に値する。
世界地図から、ソ連、ユーゴスラビア、チェコスロバキアといった国がなくなった。
これらの国々は、共産主義という共通のイデオロギーのもとに複数の民族をなかば無理やり結びつけることによって成立していた多民族国家であった。
それが、イデオロギーの崩壊こともに国家は崩れ去り、結果的には、ほぼ単一民族国家として分離・独立することになった。
肌の色や自の色がちがっても、宗教や言葉がちがっても、同じソ連という一つの固に住んでいるかぎりはソ連「国民」であり、ユーゴに住んでいればユーゴ「国民」であった。
つまり、国民という概念は、かならずしも民族その他のエスニシティとは一対一の関係で対応してはいない。
日本国民のように、ほぼ単一の民族から成るような国民は少数派である。
単一民族国家であろうと多民族国家であろうと、なんらかの共通の社会的・経済的・歴史的基盤の上に形成された国民から成る国家を「国民国家」という。
土地が領主のものであることを承認した人の集団は領土国家で、人々が国民であることを承認して国歌と国旗と国語を用いている国を「国民国家」という。
人種のるつぼといわれる米国も自由と平等という国家理念のもとに成立した国民国家である。
旧ソ連は厳密にいえば、複数の共和国などから成る「連邦国家」であるが、中央政府に一本化された政治体制は、共和国や民族の自治やアイデンティティーを認めない点では国民国家とあまり変わらない。
旧共産圏諸国を中心に、世界各地で国民国家が解体されて民族国家へ分離していく傾向がみられる。
分離がスムーズにいかなくて民族間抗争になっている地域も少なくない。
そして世界の独立国家の数は十年前と比べると大幅に増えた。
一方、複数の国民国家を統合した「国家連合」というかたちをとるECは、政治統合が達成された場合には、連邦国家的な存在になる可能性が強い。
その意味では、一連の民族中心主義の動きとは反対の方向へ向かっているといえる。
しかしECの政治統合が成立する保証はいまのところまったくない。
二十一世紀早々にもその答えが出るだろう。
また、ECのなかにあってその中核をなすべき存在であるドイツは、これまで民族国家を標梼しつづけてきたが、ここへきて、その「ドイツ民族の国家」という概念がいくつもの重大な矛盾をはらんだものであることが露呈し始めた。
EC統合という外からの圧力に加えて、東西ドイツの統合、外国人排斥運動の高まりという内側からの圧力とのあいだで、民族国家の理想が行き場をなくしてしまったかのようだ。
いずれにせよ、民族と国家をめぐる世界のこうした混沌とした状況のなかで、近代国家概念の常に中心的存在であったはずの国民国家という概念が揺らぎ始めていることはまちがいない。
国民国家の成立基盤となりうるような新しいイデオロギー、あるいは、よりいまの時代に適合したまったく別の新しい国家概念が誕生する日が近いかもしれない。
資本主義社会は原則的に自由度の高い社会である。
一定のルールに従っているかぎり個人は基本的に何をやってもよい。
国家や政府が個人の生活に干渉することもない。
「夜警国家」と呼ばれる概念である。
政府が首を突っ込まないのは経済にも同じである。
経済活動に政府は基本的に「自由放任」という立場を取る。
この考え方は十八世紀のアダム・スミスにまでさかのぼる。
政府が仕事を怠るということではなくて、あれこれ口を挟んで経済に介入するよりも、あえて何もしない方が経済はうまくいくものだという考え方である。
少なくとも十九世紀の終わりごろまでは、それでうまくいっていた。
ところが、資本主義が独占資本主義の段階に入った二十世紀になると、資本主義経済・社会に、いくつもの矛盾や問題点が生じるようになった。
とりわ防、一九三0年代の世界恐慌は自由放任の限界をさらけ出した。
街には失業者があふれ、ギャング勢力が横行する。
ひたすら自分たちの利潤の確保に懸命な大資本家に対する労働者の不満はつのり、そこへロシア革命の影響力もあって米国の労働運動は異様な高まりをみせた。
社会不安の元凶は経済の停滞であった。
そして、資本主義を危機的状況から救ったのも経済だった。
米国のニュ−ディール政策として有名な、政府による大々的な公共事業をきっか妙に、世界経済はしだいに回復した。
この貴重な実験から、自由放任主義が崩れ、経済はかならずしも自由放任という自然治癒まかせではいけないことがわかった。
その反省から、しだいに国家の役割が大きくなった。
政府はときに経済に積極的に介入し、国民生活の安定のために、さまざまな保障制度を整備する必要があるということになった。
経済への介入は、完全雇用の達成、物価の安定、公正な所得再分配などを重要な柱とする。
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